「僕たちは変わらない朝を迎える」「名前」などの戸田彬弘監督が、自身の主宰する劇団チーズtheaterの旗揚げ公演として上演した舞台「川辺市子のために」を、杉咲花を主演に迎えて映画化した人間ドラマ。川辺市子は3年間一緒に暮らしてきた恋人・長谷川義則からプロポーズを受けるが、その翌日にこつ然と姿を消してしまう。途方に暮れる長谷川の前に、市子を捜しているという刑事・後藤が現れ、彼女について信じがたい話を告げる。市子の行方を追う長谷川は、昔の友人や幼なじみ、高校時代の同級生など彼女と関わりのあった人々から話を聞くうちに、かつて市子が違う名前を名乗っていたことを知る。やがて長谷川は部屋の中で1枚の写真を発見し、その裏に書かれていた住所を訪れるが……。過酷な境遇に翻弄されて生きてきた市子を杉咲が熱演し、彼女の行方を追う恋人・長谷川を「街の上で」「愛にイナズマ」の若葉竜也が演じる。
市子評論(20)
クリスマスイブって事で温存してた市子を今見終わりました!
自分としては今年の邦画ではダントツでズバ抜けてNo.1で年間でも全作品中ほぼ一位レベルの出来でした杉咲花は普通にアッサリと日本アカデミー賞の主演女優賞でしょう。(ターのケイトブランシェットと同等レベルの指の先まで魂が籠った演技だった)
つう訳で演技なんですが杉咲花の朝ドラとか全く知らなくて初めて演技を見ましたけどこの役を演じる事が出来るポテンシャルの女優さんてほぼ居なく無いか?って思うくらい難しい役なのに(色々調べたら監督が直接指名してるんだけど納得)杉咲花さんて演技力が驚異的で泣きの演技のバリエーションだけで何パターン出来るのよ?(悲しい涙や嬉しい涙や感謝の涙などが全て完璧に演じられていてビックリ)って驚愕でした。
そこに関して更に言わせてもらうと喜怒哀楽の喜怒がほとんど無い演技の中で色んな感情を表現しているんですがそれが実に上手くて言葉以上に表情で語っている場面も多く完全に魅了されました。
あと時系列がバラバラなので多少分かり辛いですが元々は舞台劇だったのを映画にしたらしいんですが舞台劇感が全く無くて入念に作り込まれたよく出来た素晴らしい作品だと思います(映画なのに舞台のように大袈裟に演技して声張って違和感だらけの会話をしてセリフで全部説明するふざけた映画もあるのでこういう作品を見ると本当に凄いって心の底から思えます)
あと杉咲花って28歳の設定でそのまま学生の頃の役も本人がやってるけど良い意味で年齢不詳感あって違和感無いし映画の設定でも年齢詐称してるってのが変にリアルで人選が素晴らしいなあって思いました。
あと杉咲花のインタビューを見たんですが演じる時に市子になるのを頑張ろうとするんだけど実際の市子がそんな事を思って生活してる訳じゃないからそこの演じ方って部分が難しくて自分の想像などを超えてる領域の演技をしたシーンもあったとか言っていて憑依タイプの役者さんなのだとおもいましたよ。
あとずーっとすっぴんで(すっぴんで暗い表情に見せるようなメイクなのかも)静かにしてるだけなのに男子が思わず虜になるような雰囲気も醸し出されていて監督次第では男を惑わす悪のビッチにもなりかねないキャラなのにめちゃくちゃ抑えた演技で魅了していくとか演技の鬼ですね!
しかし無戸籍や自殺したい人を助ける自殺ほう助などの問題もテーマにありつつそこが内容のメインじゃなくてあくまで市子の過去に何があったのかがメインの作りなんですよね〜
市子が妹の月子として生活する事で3歳年下の妹の年齢で生活していたという設定も実は市子と関わった人たちのシーンで同じくらいの年齢なのにめちゃくちゃ力が強かったとか言っていたりして整合性もちゃんと取れているのも2回目の鑑賞から気づくポイントだったりするのも凄いと思います。
あと若葉さんも抑えた演技ながら良い感じでしたし(プロポーズの後に市子が失踪して結局市子に最後まで会えないまま映画が終わってるのもビックリ!ここも長谷川が最後に市子に会って話をするシーンを普通は入れると思うので)この監督さんの静かでセリフで多く語らないし激しいシーンも特に無いのに市子の人物像がジワジワ明らかになる過程の描き方が上手いので飽きるシーンが一切無い作り方って凄いとおもいました。
特筆すべき点は最初と最後に同じシーンがあり(厳密に言うと同じでは無い)童話の虹を鼻歌で歌うシーンと結婚を申し込まれて泣くシーンがあるんですが、同じシーンなのに最初と最後で観ているこちらが全く違う感情で見る事になる構成になっていて最後に全ての真相を知ってから見ると結婚を申し込まれた時の涙の意味が全く違う見え方になるのは見事だしあの鼻歌の童話すら2度と楽しい気分や普通の感情で聴けなくなるように仕掛けられていて監督天才かよっておもいましたよ。
ラストの最初に出会って焼きそばを食べるシーンからの今までの幸せだった生活を見せつつ感謝の涙を流しながら2人で撮った写真見て終わるエンディングは控えめに言って超完璧なラストシーンだったと思います(アフターサンと市子のラストに関しては余韻を残す終わらせ方が上手過ぎて過去数年の作品でもここまで見事なオチって自分の見てる作品では無いです)
あと市子は連続殺人犯で警察に自首するつもりも無いしサイコパスな面もあるんですがその部分を一切映像で映さないし最後の自殺志願者の女子に戸籍を持って来させて自分のこれからの新しい名前を入手しつつストーカー男の所に行かせた後に電話で一緒に海に呼び出ししてまとめて2人死ぬ事になるんだけどここの部分が市子が北君に手をかけて心中と思わせる擬装なのか北君の自分にしか市子を守れ無いっていう強迫観念を利用して言葉巧みに市子がこのあと戸籍を入手して逃亡出来るよう助ける為に自殺志願の女と死ぬように仕向けて北君も自殺志願の女と一緒に死ぬように誘導した可能性が高い事にコメント下さった方の意見で恐らくそれだろうなあって事で腑に落ちましたがそのシーンが一切無いのは面白いと思いました!(絶対このシーン普通ならあると思いますが無くて正解だと思います、2人が死ぬ場面が無くてニュースの場面のみでの説明なのでここがわからない人も多いんですが確信犯ですね、そこを描くくらい親切作品にするつもりだったらそもそも時系列をバラバラにしないだろうし普通に連続殺人犯が逃亡生活するサイコサスペンスとして公開されてますから)
あと市子が月子を殺すシーンも最初は気づかなかったんですが今の年齢に近い市子が月子を介護していて殺したようにシーンを作ってますが市子は小さい頃から月子って名乗っていたのなんで?って考えて矛盾するよなとか考えたらあの月子を殺す場面の月子がやたら幼なかったよあって所で気づいて、あの月子を殺すシーンは今の市子の脳内での再現シーンであって実際に市子が月子を殺したのは小さい頃だったって事に帰る時の車でやっと気づきましたがそんなん最初に見て理解出来る訳無いし2回目に見て発覚するような構造になっていてビックリですよ!(ここは気づいて居ない人が多いと思います)
難しくは無いけどあえて説明を省いた考察ありきの内容なので評価が分かれるでしょう。
それとストーカー君が市子の家の中を覗いているシーンで中での会話が絶妙に聞こえなくて後半は比較的聞き取れるんだけどあのシーンでストーカー君と同じ状態を疑似体験させる演出も面白いと思いました!
しかし普通に人の戸籍を奪いつつ逃亡する連続殺人鬼が出てくるサイコサスペンスな内容のはずなのにそこの映像を省いて表面上は感動の人間ドラマっぽく演出する発想も自分的には超絶に最高でした。
最後の彼氏が結婚してくれと言い出すまでが一緒にいるタイムリミットだって言うのが重大ポイントになっていて結婚を申し込まれて逃亡するまでは今まで出来なかった人並みの普通の生活が出来て幸せだった事を思い出しながらの市子のラストの涙には完全にノックアウトされました(切ないグランプリ2023で優勝です)
余韻と精神的ダメージが凄まじくてその後一切なにもする気にならなくて
クリスマスイブなのに真っ直ぐ家に帰って感想書いてるって次第です。
今年見た邦画を振り返るとややこしい時系列で説明不足な市子と完全に真逆の見たもの全てをセリフで言って説明しまくる超親切なゴジラって感じで対極の作品だなあとしみじみ思った次第です!
しかし杉咲花を全く知らないで初見で市子だったので演技がこんなに上手とかビックリし過ぎて自分は好きな俳優目当てで作品を見る事は一切無いタイプなんですが杉咲花の作品は過去のやつ全部見ようと思うくらい衝撃を受けました!
年始の劇場作品の一発目は市子の2度目の鑑賞でまだ見落としまだあるかも知れないので再確認したいと思ってます。
結局今年見た作品だとアフターサンと市子が年間最上位って事になりました!
プロポーズした次の日に失踪した彼女。今まで何も知らなかった過去とともに追い求める彼。
彼女は何故幸せな生活を捨て消えたのか。。。
プロポーズのシーンが冒頭から始まり涙を流し喜ぶ姿。そして何もかも明かされた終盤にも同じ場面が流れた時、その笑顔と涙・歓喜と諦めに似た虚空が乗っかって一気に引き込まれた。
杉咲花は凄かった。空を掴むような、存在があって無く、自分が自分である事への諦めと主張。背景にある社会的問題を抜きにして「市子」だった。
そして相手の若葉竜也。『街の上で』で主演だった時も思ったが、どこにでもいるような、何も無いような、ただ存在してるような、でもなんか引っかかる、突き刺さる。どこかで見たことあるんだよなぁって感じではあるが演技はしっかり覚えてる。そんないい役者さんで好きなのです。
凄く面白かったです。
演技力で魅せる映画。とにかく出演者の細かな表情の変化で、セリフが少なくても感情が伝わる。演技を堪能する作品。
出生300日問題やヤングケアラー、毒親など取り上げたテーマと妹になりすますという発想は絶妙。それだけにもっとおもしろい映画にできたのに…と思ってしまう。
分かりやすいエンタメ路線に乗せる必要はないのだけれど、もうすこしテンポアップしてほしかったのと、市子自身の本音や何をどう考えているのか深掘りがあればと感じた。
見方によっては、その出自と家庭環境が故に生まれた連続殺人鬼なだけにも見えてしまう。
親しくなった人を容赦なく切り捨てて別の人間として常にやり直していく人生。
子供の頃には確かにあった幸せな家族時代。そんな幸せが婚姻届と共に目の前まであったのに、またゼロからやり直す。
そうしてしまう背景がもちろんあるのだけれど、何かこう同情しきれないというか、市子自身の感情が見えにくいだけに「そこまでする?」と違和感を覚えてしまう部分があった。
市子という存在の不確かさをミステリアスに描くよりも、その悲哀をより切実に描いてほしかった。
そのあたりを俳優陣の演技力に依存してしまった気がする。一方で、演技力だけで見せてしまえるのも同時にすごい。特に杉咲花の魅力が全開。間違いなく代表作と言える。役者としての才能はこの1本を観れば分かる。どんな言葉よりも、宣伝よりも伝わる。彼女のためにあるような映画だった。
主演の杉咲花さんが市子に憑依しているんじゃないかというぐらい演技が良かったです。
幸せになりたいけど、幸せになれない、なっちゃいけない。でも生き抜かなければならない。その葛藤がうまく表現されてました。
暑い夏の日、ザラザラとした感情や違和感をかき消すようにいつものアイスを食べ麦茶を飲む。
ああいう時の本の並びとか日差しの加減とか、記憶にしおりを挟んでるように鮮明に取り出せる。