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江戸川乱歩の陰獣評論(3)
時代劇や任侠モノが専売特許の加藤監督にとってこれまた珍しいジャンル。
推理ミステリー!
と言うのも…
時は『犬神家の一族』の大ヒットで空前のミステリーブーム。
東宝×角川×横溝×金田一の超鉄壁に、松竹は推理小説の先人・江戸川乱歩で対抗。
江戸川乱歩の世界と言ったら、幻想・怪奇。横溝の本格派に変格派で勝負。
人気本格派推理小説家の寒川は、最近人気の変格派推理小説家の春泥を軽蔑している。
ある日、自分のファンだと言ううなじにミミズ腫れのある麗しい婦人・静子と出会う。
彼女は脅されていた。脅迫相手は、春泥。元交際相手だった。
静子は寒川に助けを求め、寒川は静子に魅せられ、春泥の行方を追うが、遂に静子の実業家の夫が殺され…。
怪しさと、謎と、面白さの、昭和初期を舞台にした殺人ミステリー。
私はこれだけでもご飯三杯はイケる。
しかし、二転三転の犯人のトリックは確かに面白いが、何となくすぐ分かっちゃったのは致命的。
動機もちと弱かったかな。
謎解きも前半~中盤ゆったりして、後半性急。
悪くはなかったけど、確かに“本格派”というより“変格派”。
それを醸し出しているのが、この独特過ぎる雰囲気だろう。
カメラアングル、明暗の照明、レトロな美術、流麗と不穏な鏑木創の音楽…。
市川崑が横溝ミステリーの世界をおどろおどろしく描いたのなら、加藤監督も江戸川乱歩の幻想・怪奇な世界を異色に創り上げた。
横溝金田一との大きな違いは、こちらSMなどのエログロ要素。それが隠しメインと言っていいだろう。
横溝金田一にだってエログロ作品はある(例えば『悪魔の寵児』とか)。しかし当時金の成る木だった故か、映像化はメジャー作品だけ。
対抗案を全て請け負ったよう。
キャストでは静子役の香山美子の妖艶さがヤバい。圧倒的な存在感。
一応話的にはあおい輝彦演じる寒川が主役で頑張って推理しているんだけど、軽く消し飛んじゃうくらい。
クセのありそうなキャラを配置しながら、巧みに物語に絡ませ切れていないのも残念。珍しくコミカルな役所の若山富三郎とのバディをもっと見たかった。
にしても、あおい輝彦も若山富三郎も角川金田一映画に出てたね。
冒頭、寒川が言う。最近の流行りを断固軽蔑する、と。
寒川の格好は某探偵そっくり。
寒川の作品は近年、劇に映画に続々大人気。
実はかなり意識している…?
本格派の角川金田一が人気の時に、確かにこれはちと…。興行的には不発だったとか。
本サイトや各映画サイトでも微妙もしくは賛否両論。まあ、それも頷ける。
個人的には、最高ではなかったけど、妖しきミステリーの香りにそれなりに満足。
変格の中に、本格を作ろうという変格が感じられた。
さて、これにて昨年末から定期的に見ていた以前WOWOWで録り溜めしていた加藤泰監督特集は終了。
時代劇に任侠モノをメインに、ミュージカル、犯罪サスペンス、推理ミステリー…その娯楽手腕をたっぷり堪能。
でも、見たのはほんの一部。
またいずれ特集を!
作家役のあおい輝彦が謎解きしていく筋立て。独特な色調。凝ったアングル、極端なクローズアップなど、使えるテクを総動してこの世界を作る姿勢が素晴らしい。
だがこの映画で一番褒めなければいけないのは香山美子である。いやぁ凄い。和服姿で控えめに漂う色香。ここが決まらないと乱歩ワールドが成り立たない。そして徐々に体当たりな××××なのよ。
少々わかりにくい(説明不足)な所とかあるのだが、ラストで全て許しちゃう感じ。描写はさほど激しくはないが、日本独自の美意識、昭和テイスト、筋の通った変態描写、というのを堪能できますね。
脅迫状が来ていて、犯人は小説家の春泥だと思うので、証拠を見つけて欲しいと依頼される。
依頼者の首筋にミミズ腫れがあるのを見つけた主人公は、興味を持ち担当の編集者(若山富三郎)と調べ始める。
色っぽいけど独特の絵が異常性を表しているのかな。