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アメリカ
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アメリカ
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05月14日 2021 台灣上映
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オール・ザ・キングスメン評論(8)
ストーリー: 75
キャスト: 85
演出: 85
ビジュアル: 70
音楽: 75
権力に取り付かれそれを守ることに執着した元役人の男を、彼の正義感に惹かれて彼の元で働いた新聞記者の男が、けだるい憂鬱な雰囲気の中で描く。
ショーン・ペン演じるウイリーは、最初は賄賂を拒否したことで職を失うことになったほどの清廉な人物であり、田舎でほそぼそと生きていくのが似合う小人物だった。しかし権力を目の前にした途端に彼の全ては変わる。
彼は普段は真面目な一市民でも、彼の正義感から来る扇動政治家の素質があった。通常通りの選挙演説から自分流の派手で人々の怒りの感情を煽り立てる方法に変えたとき、その素質が開花する。敵を作り上げそれを攻撃することで、自分こそ大衆を代表して正義を全うする英雄だとして自分自身を祭り上げ大衆にそれを認めさせる。出納役人をやっていた彼を静とするならば、選挙からの彼はまさに動である。まるでヒトラーの演説を彷彿とさせるし、それがその後の彼を暗示している。実際その後の彼は大衆の金持ちへの怒りを支持母体に、自分の思うままに権力を使おうとするのである。
元々彼は器の大きな人物ではなかったのだろう。彼の器を越えるものが自由に出来る権力を手に入れたとき、過去の彼は完全に消え去ってそれに固執するだけの違う人物が誕生してしまった。彼の正義感は消えて、自分のために正義の名の下に彼の政敵を攻撃するために使われる扇動の力となった。
地位・責任・権力が人を育てることもある。しかし自分の器を越えるものを手にしたとき、それらが人を駄目にすることもある。それが多くの市民に影響を与える。そのような怖さが出ていた映画であった。
しかしジュード・ロウが最初の清廉なショーン・ペンに惹かれたのはわかるが、ショーン・ペンが権力欲のかたまりに変貌してしまった後も彼の下で働き続けたのは何故だろう。ジュード・ロウは美しい思い出や友情や親愛など多くのものを失うことになったし、そうかといって彼が権力欲に取り付かれていた感じではなかったし、またそのままでは多くのものを失うことがわかっていたはずなのにである。彼は新聞記者として正義の心をもっていたはずで、それだからショーン・ペンに惹かれたはずだ。過去の姿の幻想から抜け出せなかったのだろうか。そのあたりが少し疑問として残った。
『不正を憎んでいた男が権力の座に着き、いつしかその亡者と化していく』よくあるお話です。日本だけでなく、これは全世界共通でいえることでしょう。権力の中枢にいながら、公明正大でい続けるというのは、なかなか難しいことだと思います。この映画の主人公のウィリーも、最初は弱者の側にいるのですが、やがては権力の波にのまれ、その魔力に溺れてしまいます…。て、感じなんでしょうが、残念ながらこの映画、ウィリーが権力の側に堕ちていく様が、あまり描かれてないんですよね。選挙に勝った後、いきなり5年が経ってしまいますので、何でそこまで悪くなったか?がイマイチよくわかりません(実際に賄賂を受取ったとかいうシーンが出てこないので)。選挙前に弱者の側から言ってたことは、知事になってからの政策にも反映されていたように感じられるので、判事から弾劾されるという話が出てきたときも『コイツ、そんなに悪いことしてるか?』と思ったのが、吾輩の正直な感想です(そりゃ、『酒を飲むようになった』とか、『女グセが悪くなったとか』はあるんですけど。それって、権力や政治には無関係でしょ?)。その辺をもう少し掘り下げて描いてくれれば良かったような気がします。大河ドラマなんですから、もう少し上映時間が長くても(2時間8分では、モノ足りん!)問題ナシでしょう。ひょっとしてそんなところが、アメリカで大コケしてしまった要因の一つかも知れませんね。
ただこの映画、キャスティングは秀逸です。ショーン・ペンの狂気を孕んだ演技は、観る者を圧倒せんばかりですし、ジュード・ロウの控えた演技も見事。そしてわずかな出演で、その存在感を強烈にアピールするアンソニー・ホプキンス。“動”のショーンを“静”で受ける貫禄が素晴らしいの一言!この男達の共演に、無垢で可憐でありながら、やがて汚れていってしまうジャックの思い人・アンを演じたケイト・ウィンスレットと、政治(権力)の世界で生きる女・セイディの悲哀を演じたパトリシア・クラークソンが絡み、非常に濃厚な人間ドラマが繰り広げられます。うん、こんな展開ならホントにもう少し長くても良かったと思いますよ。惜しいな~!