「ローサは密告された」「キナタイ
マニラ・アンダーグラウンド」などフィリピン社会の暗部をえぐる社会派作品で高く評価されてきたブリランテ・メンドーサ監督が、交通死亡事故の加害者家族が被害者遺族を使用人として雇ったことから始まった奇妙な共同生活を描いたドラマ。交通事故を起こした息子の罪を被って服役していた家族の長が出所することになり、帰還を祝う宴の準備が進められていた。父親が収監されている間、妻と息子は協力しあって家族と家計を守り、事故で亡くなった男の妻子を使用人として雇い入れ面倒を見ていた。しかし宴の日が近づくにつれて後ろめたさと悲しみが再浮上し、平穏が掻き乱されていく。主演は、フィリピンの国民的ドラマ「プロビンシャノ」で人気を集めたココ・マルティン。
FEAST 狂宴評論(2)
監督の事は全く知らなく、過去作では政治、セックス、暴力を絡めた内容が多いらしい。でも今回それらを封印したのはコロナパンデミックの影響が大きかったとの事。その考えは分からなくもないし、倫理観の違いと言ってしまえばそれまでだけど、端的につまらない。
目を惹かれたのは、豪勢な料理の数々。観ているだけで食欲を掻き立てるそれらを、これが最後の晩餐かと思わせるかの如く食する加害者家族達…久々にどう評していいのか、どういう感想を抱けばいいのか困惑。買い付けた配給会社さんの気概は天晴だけど、宣伝大変そう…
だが調べてみると、本作には別バージョンのエンディングがあるようだ。ブリランテ・メンドーサ監督はもともと香港国際映画祭協会から製作資金を援助されていた関係で、「セックスも暴力も政治もない映画」との条件で完成させたという。香港など国外の映画祭に出品したのち、今度はフィリピン国内の映画祭に出品する条件として内容の変更を迫られ、主演のココ・マルティンの提案も受けてまったく別の印象を与えるエンディングにして出品したのだとか(もともと別バージョンのシーンも撮影していたのか、変更を決めてから急きょ追加撮影したのかまではわからなかった)。
ネタバレを避けるため具体的には書かないが、最後まで観ると別エンディングがどんなものかは容易に想像がつく。邦題はそちらへの含みも込めたのだろうか。
貧富の差がある2つの家族が同じ家に暮らすという点で「パラサイト 半地下の家族」を想起させもするが、過激なあちらに比べると本作はずいぶんと穏やかに進む。キリスト教の贖罪や赦しがテーマになっていることも一因だろう。
メンドーサ監督の「ローサは密告された」は強く印象に残っている傑作で、当サイトの新作評論も書かせてもらった。2作を比べると、先述の理由もあって刺激は少ないのだけれど、家族のあり方や罪のつぐない方をじっくり考える契機にはなるだろうか。