ドキュメンタリー監督の想田和弘が「こころの病」とともに生きる人々を捉えた「精神」の主人公の1人である精神科医・山本昌知に再びカメラを向け、第70回ベルリン国際映画祭フォーラム部門でエキュメニカル審査員賞を受賞したドキュメンタリー。様々な生きにくさを抱える人々が孤独を感じることなく地域で暮らす方法を長年にわたって模索し続けてきた山本医師が、82歳にして突然、引退することに。これまで彼を慕ってきた患者たちは、戸惑いを隠しきれない。一方、引退した山本を待っていたのは、妻・芳子さんと2人の新しい生活だった。精神医療に捧げた人生のその後を、深い慈しみと尊敬の念をもって描き出す。ナレーションやBGMを用いない、想田監督独自のドキュメンタリー手法でつくられた「観察映画」の第9弾。
精神0評論(8)
「観察映画」初体験でした。
それは一言で言えば『ガチンコ勝負』
一般の映画は、何を見せるかをしっかりと練って提供する「プロレス」と同じエンターテインメント。
そしてこの映画は、リングとルールだけ与えられる中で闘う「総合格闘技」のようだ。
脚本が無く何が起こるか予想がつかない、だから監督ですらありのままを受けとめるだけではないだろうか。
前半は山本医師の素晴らしい精神科医としての姿が表現されている。
「病気ではなくて人を看る」
「本人の話に耳を傾ける」
「人薬(ひとぐすり)」
それらのモットーを表している小道具があった。
山本医師は事務用の「係長席」のような椅子に座られているが、患者はまるで「部長席」のようなどっしりと座れそうな椅子なのだ。決してパイプ椅子ではない。山本医師がワンダウン下がったポジションで、患者の話を傾聴していることが分かる。引退するには惜し過ぎるとやりとりから十二分に伝わってくる。
そして後半に入ると奥様が映り込んでくる。前作「精神」を観た人なら尚更感じるだろう違和感。山本医師を支え続けた姿から、先に「人生を降り始めた姿」が映される。そしてその妻を支えることに残りの人生を使うことを選んだ山本医師の覚悟がテーマの一つであることに気づくまでそう時間はかからない。
素晴らしい医師から一人の夫になる。
働く男ならあり得る姿だと、頭の片隅に入れておきたい。
そしてその時に山本昌知氏のように振る舞う備えはシェおきたいと思う。
老いとはどういうことか、人生の幕引きをどのように過ごすのか。それはいつか誰もが直面する問題だ。最後の時をこのように穏やかに過ごせる人生はきっと素晴らしいものに違いない。
今回も最初からかなり見入ったし、作り手と被写体との距離感というか空気感は、これまで以上に素晴らしく感じた。
あくまで撮る側は陰というスタンスを維持しつつ、カメラがあることを決して隠そうとすることなく、カメラ存在をリアルでナチュラルに構築されているところが毎回好感を持つ。今回も、カメラで撮っていれば対象はこうなるであろうことを素直に誠実に、それでいて冷徹に見つめていて、微笑ましくもあり悲しくもあり、感動的でもあった。
これまでの作品と違う点としては、かなり辛い気持ちで見つめたというところ。どうにもならないもどかしさ、悲劇的な方向へと向かっているベクトルをひしひしと感じて、見終わったときのわだかまりはかなり強いものだった。
映像だけで分かりやすく濃密な内容を伝えていることに素晴らしさを感じることは言わずもがな、無理にコントロールすることなく誠実に被写体を追った結果が凝縮されているこの構築物を眺めているだけでも非常に面白いと感じる映画だった。
無条件に高評価してしまう部分は
あるかもしれません。
でも、こんな地味なドキュメンタリー映画を、
面白いと思ってしまうのは、
やっぱり監督の手腕だと思うんです。
もし、「長年精神科医療に携わってきた医師の引退と
それを影で支えた妻」みたいな切り口で5分番組を作ったら、
お菓子を出すのに手間取ったり、
おぼつかない足取りでお墓参りするシーンは
出てこなかったと思うんです。
あのじれったいシーンを見ながら、
色んなことを思うと思うんです。
パッとした派手さや面白さはないけど、
こちらが能動的に考える感じるところに、
想田映画の凄さはあるんですよね。
そして作品ごとの楽しみもありながら、
次はどんなテーマを突きつけてくれるのかという、
想田作品全体での楽しみがあるなーと思います。
最後に、この映画はコロナ期間に「仮設の映画館」で観ました。
自分だけではなく、映画業界全体の利益になるようなシステムを考えられるなんて、
彼はビジネスマンとしても優秀だし、
いいビジネスってこうゆうことだよなって思うんです。
車も運転されてたけど、いつまで出来るのだろう。
そんなに遠くない今後のことを考えさせられる作品だった。