イランの名匠アッバス・キアロスタミが監督・脚本を手がけ、1997年・第50回カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた人間ドラマ。人生に絶望した男が老人との出会いを通して希望を取り戻していく姿を、繊細かつ大胆な演出で描き出す。土埃が舞う道を走る1台の車。運転する中年男バディは街行く人々に声をかけては車内に誘い入れ、多額の報酬と引き替えに自殺を手伝って欲しいと依頼する。クルド人の兵士もアフガニスタン出身の神学生も拒絶するが、最後に乗せた老人バゲリは依頼を承知の上で、自分の過去についてバディに語り始める。特集企画「そしてキアロスタミはつづく」(2021年10月16日~、東京・ユーロスペースほか)にてデジタルリマスター版を上映。
桜桃の味評論(11)
こういう乾いた土地の砂埃舞う映画
見てて喘息出そうで得意じゃない、西部劇とか
だけど面白いんだよね、ノマドランドもそう
自殺を看取ってくれる人を探して
乾いた道路を彷徨う
神が与えた命を捨てる男に
さくらんぼの味を思い出させる
では少年だったが、今度はおっさんがあちこちまわる。
自殺を手伝ってくれるよう頼む人たちとの出会いがちょっとしたオムニバス作品みたいになっている。
別監督だが『人生タクシー』はこれを意識した?(かも)
なぜそこまでして死のうという気になったのかが、ちょっとわからなかったのだが、何か見逃したか?
生きていれば高確率でなんらかの困難にぶち当たる。
人間にとって不変のテーマ。
3人目のお爺ちゃんが全部言ってくれました。
砂煙の舞い上がる道をくねくねと上がったり下がったりして進む様子は、まさに人生そのものにも見えた。
その道は行ったことのない道かもしれないが、行ってみたら新しい発見があるかもしれない、考えが変わるかもしれない。
生命ある限り、甘くても酸っぱくても苦くても、その味を味わいたいものだ。
ゴールは必ず向こうからやってくるのだから。
……にしても最後のおまけみたいなのんはなんだ?イラン人のセンス?俺たちもこうやって生きてるんだよってことなのかな……。
音楽なし、会話は途切れがち。
口ごもる若者との気詰まりな特殊なドライブ。
淡々とした導入。
舞台は徹頭徹尾土砂採掘場。
そして同じ道を何度も何度も通るものだから、ヘッドライトしか見えない真夜中にその道を通るシーンでも、どの道のどのカーブの辺りを車が走っているのか判るという繰り返し感ね。
僕も今までずいぶんたくさんのヒッチハイカーを乗せてきたんですが、乗り合わせた異(い)なる人生との出会いはそれぞれ不思議な思い出になっています。
やかましくないイラン映画。
「オリーブの林を抜けて」と同じ監督さん。
何故か安心して観ておれる。
無音の“間”を恐れず沈黙を生かし、心情の機微のはかなさ、美しさを見つめるその国民性は、かつての日本映画と通じる何かを感じます。西のイランと東の日本の間を脈々と流れるシルクロードの“アジアの血”を実感させるのです。
本編より余韻の時間のほうが長いというこの“読後感”は、監督の魔法にかけられた証拠かも。
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知らない俳優さんによって演じられる海外の映画は、余計な先入観に邪魔されずに物語そのものに没入させてくれる効果があるのだと途中で気付きました。
日本で撮れば主演は役所広司?渡辺謙?辺りかな。でも旧知の俳優だとこの脚本は寝てしまう恐れあり。
だから原作や脚本は国産でも外国で撮ることでストーリーがプレーンになる、
そういう逆のパターンも、ありそうですね。
TSUTAYA 良品発掘の棚よりレンタル。
冒頭はある意味ドキュメンタリータッチで町を歩く人に声をかけまくるオッサン。後から考えると、ここだけは完全にアポなし撮影だったのかもしれないなぁ。
最初に助手席に乗ってしまったのは兵舎へと急ぐ若い兵士。まだ兵隊になって2ヵ月で、給料だけじゃやっていけないともらしたりする。仕事してみないか?とオッサンは訊く。が、兵士は内容は?と訊き返すばかり。もしかしたら男色で、変態行為を要求されるんじゃないかとビビッているかのようだった。
二人目はアフガニスタンからやってきた神学生。自殺ほう助を頼むが、もちろん宗教上の理由で拒否するのだった。ただ、まだまだ学生であるため、オッサンの自殺を止めるまでには至らないというもどかしさ。オッサンも負けじと神から授かった命を返すだけだと説得するも、やはり交渉決裂。
いつの間にか三人目となるバゲリ爺さんが助手席に乗っていた。「わしも昔は自殺しようとしたことがあっての・・・」「桑の実を食べてるうちに自殺する気が失せてしまったのじゃよ」などと、人生の先輩らしく止め方も柔らかい。仕事は請け負ったものの、オッサンがすでに自殺する気がなくなったんだと確信したに違いない。彼は車を降り、職場である自然史博物館の中へと消えていった。
深夜、わざわざタクシーで自殺場所に向かったオッサン。しかし、どうなったかは観客に委ねられるかのように、突如何かの撮影隊と兵隊さんたちがピクニック。これで本当に自殺したんだと思う人はいないだろうけど、ストーリーの突き放し方が尋常じゃない。心地よいとも思えないし、やはり甘酸っぱさが残る作品と言えるのでしょうか。