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東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート評論(4)
一切の説明を削ぎ落とした実録映画。そのため登場人物たちの会話からその背景や現状を推し量るしかない。見る側の想像力はもちろん、予備知識もかなり必要だと感じた。一切演技はない、素のまま。セリフもない、日々の会話。住処を追い出され、否応なく、数々の思い出を片付け、引越しをさせられていく年寄りたち。
この国は本当に弱者切り捨て社会なんだなあ、、と感じた。
もし自分が同じ立場でも、どうしようもないのだろう。戦争こそないが、安心して老後を過ごせる国ではないことは確か。
戦後日本の高度成長のシンボルだった東京オリンピックと都営住宅、その老朽化は、そこに住んだ人々の老化そのもの。
彼らは身寄りもほとんどないかまたはいても疎遠になってしまっているのだろうか、誰にも頼らずひとりでリヤカーをひく片腕の老人、、、エアコン室外機を自分たちで取り外す老夫婦、、、。
ところで、ラジオ体操は引っ越し後なのか引っ越し前なのか、疑問が残った。
東京2020オリンピックという一大国家イベントの下支えをなったこのような人たちのことは決して忘れてはいけない。
でも、公営住宅ってそういうものなんだと思う。開発等で土地が必要になれば、都にとって有効な使い方に変更される。
住人からすれば、終の住処になってほしかった気持ちも分かる。でも、「高齢化が進んで、住人が減って、最後の1人がいなくなるまで巨大な建物を維持される」と約束されてはいないはず。未来永劫残る建物ではないし。いつか取壊し、立退があるものと分かってるはず。気持ちの面でも経済面でも影響があるのは理解できる。
冷たい言い方だけど、そうやって発展していくのだろうと思う。
都が経済的に弱い人を一方的にいじめていいなんて思わない。誰かホームレスになってしまってるなら住宅の手配や、必要なら生活保護の申請をサポートしてあげてほしい。
もし、次の住宅の提案等をしてるなら、都はちゃんと仕事してると思う。
開発の裏でこの様な問題が出るのは当然。
コミュニティ等全てを保ったまま何かを変更することはできない。全ての希望を叶えるのは難しいので、お互いが歩み寄って納得していくほかないのだろうと思う。
この映画で霞ヶ丘アパートの存在を知れたのでありがたいです。
見終わってふと思い出したのは、かつて昭和50年代から平成前半頃のNHK特集(ないしはNHKスペシャル)が描いてきたようなテーマと覚悟のようなものです。骨太で真実を突く力作でした。安定感のある考え抜かれたカメラポジションからの固定画。私の好みでは、多くの人々に届かせるためには、美意識を廃してでももう少し俯瞰情報(文字、映像ともに、或いは冒頭にはナレーション的な言葉が少しあっても、より入り込みやすくなったかもしれません)が有っても良かったかと鑑賞中は感じましたが、監督の狙いと美学なのだとも思います。
目の前で起こる壮絶な現実に、監督は、撮影クルーはどう動いていたのか?どう声をかけたのか(かけなかったのか)?、声をかけたとしたらそこは構成上カットしたのだろうか?と自分がもしその場にいた人間だったならどうするだろうか、と自問しながら鑑賞しました。
長期に渡る制作期間。きっと現場に行かれなかった日々や、惜しくも撮り逃してしまった入れたかった、或いは入っているべきカットやシーンも沢山あった事だろうと邪推します。けれども残されたこの記録映像からは、現代の日本人の、そして社会や政策の、愚かで人の心を大切にしなくなってしまった姿がこれでもかと浮かび上がってきます。
映画のヘソとなる壮絶な引越のシーンが胸を打ちますが、実は監督の狙いはそれらの過激な現状よりも、ところどころ、そして冒頭からも挿入される場当たり的にも見えた各社マスコミの取材姿勢のような気がしました。
マスコミだけを批判しているのではなく、我々ふつうの人々の目を覚まさせようとするかのようでもあり。いずれにしても、これらの問題はこの映画だけでなく、NHKスペシャルや大手新聞のトップ記事として連日のように世に問われるべき問題だったはずです。
復興五輪という名の不幸五輪が始まってしまったタイミングで先行上映に踏み切ったアップリンク吉祥寺の英断にも拍手。終映後に登壇された 青山真也監督は若く見え、喋りは流暢ではなかったけれども静かで熱い思いを少しずつ言葉を選んで語られる人でした。次回作も観に行くと思います。
今、観ることに、向き合うことに意味がある映画だと思いました。劇場のコロナ対策は厳重でした。ソフト化、オンライン視聴可まで待たずに今、見るべきドキュメンタリー映画なのではないかと感じました。