ホロコーストに加担した元ナチス親衛隊中佐アドルフ・アイヒマンの裁判をとらえたドキュメンタリー。1961年4月11日、ユダヤ人国家イスラエルの法廷で開始されたアイヒマン裁判は、イスラエル政府の意向により一部始終が撮影・録音され、全世界37カ国で放映されたと言われている。ハンナ・アーレントによる同裁判の傍聴記「イェルサレムのアイヒマン
悪の陳腐さについての報告」に感銘を受けたイスラエルの反体制派映像作家エイアル・シバンと「国境なき医師団」元総裁のロニー・ブローマンが、約350時間にも及ぶ記録素材をもとに再構成。アイヒマンの“専門家”としての顔を明らかにすると共に、「自分は上司の命令に従っただけ」と主張する小役人の肖像を徹底したリアリズムで描き切ることで、アーレントが説いた“悪の凡庸さ”の実像を浮かび上がらせていく。
スペシャリスト 自覚なき殺戮者評論(6)
道徳的で、穏やかで、正直で、真面目で、優秀で、職務に忠実で、細やかなところまで気が回り、かつ従順であるアイヒマンはなぜ、ホロコーストに手を貸したのか。
感情的で激しい追求にも関わらず彼の返答は変わらない。「命令に従っただけだ。」知らぬ間に裁判自体の傍聴者になっている私たちの心に去来する問い。「アイヒマンが私なら果たしてどうだったのか」
今だからこそ声高に戦争反対を叫ぶのではなく、戦争はいかにして起こるのかを直視することが必要なのではないかと、考えさせられる。