「失はれた地平線」「チップスさん左様なら」のジェームズ・ヒルトン作の小説の映画化で主役は「キューリー夫人」のグリア・ガースンと「消え行く灯」のロナルド・コールマンが勤める。「大地」のクローディン・ウェストが、ジョージ・フローシェル、「紅はこべ」のアーサー・ウインベリスと協力して脚本を書き「キューリー夫人」と同じくマーヴィン・ルロイ監督、シドニー・A・フランクリン製作、ジョゼフ・ルッテンバーグ撮影のスタッフによってものにされた。助演は新人フィリップ・ドーン及びスーザン・トラヴァース、レジナルド・オーウェン、ライス・オコナーその他で、ピータースを除けば全部英国俳優のキャストである。
心の旅路評論(11)
記憶を失う英国陸軍大尉をロナルド・コールマンが、
心優しい踊り子ポーラをグリア・ガーソンが演じていた。
大輪の花のように美しいグリア・ガーソンの優しく包み込むような笑顔で、あのような温かい言葉を掛けられたなら、誰しも虜になるでしょう。
深い愛情の美しさに心洗われる作品。
NHK - BSを録画にて鑑賞
こらえにこらえ、溜めに溜めた想いが堰を切って吹き出しました
それまでの記憶を呼び戻す為の様々なきっかけが、次々と不発になって、あれも駄目、これも駄目となっていたのが、遂に届いたのです
正に心の旅路でした
お話は記憶喪失ですが、私達の人生も考えてみれば忘却という軽い記憶喪失を繰り返しながら生きているとも言えないでしょうか?
ずっと昔、あんなに愛し合った人がいたのに、いまは別の人と家庭を持って幸せに暮らしていたりするのです
ふと我に帰る瞬間は誰にもあるのでは無いでしょうか?
それが胸の奥の、破裂しようとしている何かをチクチクと突き刺してくるのです
ラストシーンで号泣してしまうのは、本作のメロドラマで感情移入しての号泣でありつつ、自分自身の古い恋愛の記憶と、長い年月の果てに現在の自分が置かれている現状に初めて思い至ったかのような感覚
それが私達を泣かせているのかも知れません
ポーラがあの街に行ったのは、しばらく海外に行く前に死んだ赤ちゃんの墓参りに行きたかったのかも知れません
劇中で彼女が罹ったという流感は時期的にスペイン風邪と思われます
当時パンデミックになり世界中で数千万人が死んだインフルエンザだそうです
まるで現代のコロナと同じです
赤ちゃんか死んでしまったのもむべ無いことだったのです
天国の赤ちゃんが天使になって、二人を引き合わせて元に戻してくれたのかも知れません
記憶喪失を題材としたロマンティック・ラブストーリー、母が大好きだった映画。
原作の悲劇要素を希釈し善意の人々の思い遣りに満ちたハートウォームな物語に仕立てました。
主人公は原作では20代の若者でしたが映画では渋い紳士風、観客層を意識したのでしょう。ただ、いくら姪のキティが早熟でも不釣り合い過ぎますね。映画で感心するのは無償の愛を貫くポーラ(グリア・ガーソン)の気高さです。真実を告げずにじっと待つ奥ゆかしさは時代を感じさせます。キティ(スーザン・ピーターズ)もチャールズ(ロナルド・コールマン)の眼差しに愛する別の女性の面影を察知、若いとはいえ女性の勘の鋭さは凄いですね。マービン・ルロイ監督の女性観なのでしょうか、彷彿とした女性へのリスペクトを感じます。原題はRandom Harvest:不揃いな収穫?、これではなんだかわかりません、邦題の「心の旅路」は秀逸ですね。
脱線ですが、まるで作詞家の阿久悠さんが描いたような物語、踊子のポーラから「ジョニーへの伝言」、メルブリッジの街で記憶が蘇るくだりでは「五番街のマリー」が頭の中で流れました。ロマンティックの神髄は悲恋なのでしょうが王道のハッピーエンド、これほど持ってかれるラストは久々に観ました。クラシック名画万歳です。