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サンダカン八番娼館 望郷評論(3)
田中絹代でなけなればこの映画は成立しない、それほどのもの凄い演技でした
他の誰が演じても無理です、彼女でしかなし得ない恐るべき演技です
枯れ木のように細く軽い小さな体と浅黒く日焼けした肌と顔
そこにキラキラ光る瞳と笑ったときの得も言えない包容力
正に老境のおサキさんそのものです
彼女こそ稀代の名女優です
そしてそれを清楚で上品な栗原小巻との対比をなすことで一層際立ているのです
高橋洋子も現代パートに負けない熱演でした
また熊井啓監督の演出もものすごいものがあります
特におサキが初めて客を取らされたときに、彼女の顔に掛かる客の首にかけられたチェーンの先の細長い鍵のシーンには感嘆しました
強制された処女喪失の破瓜の痛みと悲しみに歪む顔、逃げ場のない鍵をされた部屋、男が首にかけたチェーンが顔に掛かる体位、男性器を暗喩する鍵の挙動
それらを一挙に映像で表現してしまうのです
また天草の兄の家の風呂で顔を湯に浸け声を出さずに泣くシーンにも心が張り裂かれました
音楽はあのゴジラの伊福部昭で、独特の他にない土臭い強烈な音楽で突き抜けた悲しみを増幅させる力があります
その他にもおサキさんという一人の女性に日本の近代化の軋みと歪みが見える構成と演出は見事という他にありません
終盤の主人公とおサキさんの別れでのタナカ絹代の号泣シーンには強烈な破壊力があり涙腺が崩壊しました
エピローグの墓が日本に背を向けている
拒絶のように見えて、実はそれこそが血のでるような望郷の叫びだったのです