奈良県南東部の山々に囲まれた静かな集落を舞台に、旅館を営むある家族の姿を描いたドラマ。周囲を山々に囲まれ、かつては商店や旅館が軒を並べ、登山客などで賑わった奈良県南東部の静かな集落。12歳のイヒカは、この地で代々旅館を営む家に生まれた。父は数年前から別居しており、旅館に嫁いできた母の咲は、義理の父であるシゲと旅館を切り盛りしている。そんなある時、シゲが突然姿を消してしまう。旅館が存続の危機を迎える中、イヒカの家族にある変化が訪れる。主人公イヒカ役を奈良県出身で本作が映画初出演となる三宅朱莉、イヒカの母・咲役を水川あさみ、父・良治役を「ケイコ
目を澄ませて」の三浦誠己、祖父・シゲ役をベテラン俳優・堀田眞三がそれぞれ演じる。監督は「赤い惑星(ほし)」などのインディーズ作品を手がけ、本作が長編商業デビュー作となる村瀬大智。
霧の淵評論(6)
本映画も、登場人物のバックボーンがあまり語られないタイプの映画です。
各役者がそれぞれの演技でそれを補うことで、説明的なシーンはほとんど省略しています。
演者の表現力が試される映画とも言えます。このタイプで、個人的に近年最も良かったのが「アフターサン」でした。
さて本作に立ち返り、どうよと問われると、私にはうまく伝わってきませんでした。それぞれの演者はそれぞれのシーンで熱演していますが。
おそらく今なお残る奈良のノスタルジックな町並みと清らかな大和川の源流と歴史ある林業を全面に出したかったのでしょうが、撮影の問題か光源の問題か、上手に取れていない印象があります。後半のクライマックスシーンも、色々ご苦労されて撮影したと思うのですが、セットや小物など細部を含め切り取った時代が不鮮明(昭和中盤~後半と思われますが)でリアリティが感じられず、めちゃめちゃキレイ!とは感じませんでした。
映画は監督が表現したいことがありますが、予算や納期など限られた条件の下で良いものを作るのは大変だと改めて思いました。
父親は役所勤めか林業か別居して暮らしており離婚話しもチラホラと、シゲ兄こと爺さんが手伝いながらたまにやってくる客を泊めたり村人に食事処を提供したりという状況の朝日館。
序盤は。ストーリーとは何ら関係ない日常会話の様なものをみせたり、BGMを流して日常をみせるだけだったりとなかなかまったり。
これといったものもないまま、突然爺ちゃんが帰って来なくなり、そして旅館はどうするのかと…。
なんだかのペ〜っと投げかけているのかもわからない程度の行き詰まり感はあるけれど、そもそもそう遠くないうちにその状況に陥る訳で、子ども目線で考えたら確かに突然の一大事かも知れないけれど、なんだかぼやっともやっとした作品だった。
少女が古い旅館の窓ガラス越しに外を見ているショットが思わせぶりに反復されるが、べつにひどくうまく撮れてはいないのでただ白けるのみ。
ロングもクローズアップも、ほとんどすべてのショットがやはり「スチル写真」としか意識されていないから、シーンが作れない。伸ばした方がよいものを切り、切り上げた方がよいものをだらだら見せる。しかもそこで見せられているものは、ほぼ全部、過去の映画にもっと素晴らしい作例があるものばかり。それらを真面目に見てきていない観客をダマすことはできるだろうが。
このレベルだと、もののはずみでどうでもいいマイナーな映画賞をもらうのが関の山。東京藝大院映画専攻との、格と知性の落差がいたたまれない。
自分も小さな村で育ったので共感する部分が多かった。映像も音も心地よくて、頭で考えて分かろうというよりもただ心身にまかせて観ていたい映画。
次は大切な人と観に行きたい。